どんなに売上が好調な企業であっても、売掛金や未回収の債権が積み重なり、キャッシュフローが圧迫され経営が揺らぐ危険性があります。実際に企業経営者の方には、こんな悩みを抱えることも少なくありません。
そんな時、債権を他者に譲渡することで、早期に資金を確保できる手段が存在します。それが「債権譲渡」です。
健全な経営を行うためには、キャッシュフローの管理が非常に重要です。資金ショートのリスクを避け、資金繰りに余裕をもたせることで、企業は安定した経営を続けることができます。
このような意味で債権譲渡は、単なる資金調達の方法にとどまらず、企業にとって戦略的な選択肢として重要視されています。
本記事では、債権譲渡の基本概念から、その利点とリスクまでを詳しく解説します。経営者だけでなく、ビジネスに携わる全ての方に役立つ内容です。この機会に債権譲渡の知識を深めておきましょう。
債権譲渡とは
債権譲渡の前に、まずは債権とは何かを理解しましょう
債権とは「他者に対して持つ請求権」を指します。例えば、企業が商品やサービスを提供した際に、後日顧客から支払われる売掛金や、ビルオーナーや大家など賃貸人が借主に対して賃料を請求する賃料債権などがあります。
また、金銭の支払いを目的とする債権以外にも、売主に対する商品の引き渡し請求権や、貸した物品の返還請求権なども債権に該当します。
日常生活やビジネスシーンの中で、債権は非常に身近な存在です。例えば、友人に貸した本やDVDを返してもらう場合も債権が発生しています。
このように、債権は法律用語として難しく感じられるかもしれませんが、実際には私たちの生活に深く関わっているものです。
なお、債権を持つ人(例えば、お金の支払いを請求する権利を持つ人)を「債権者」といい、その相手方(例えば、お金を支払う義務を持つ人)を「債務者」といいます。これ以降この用語を使いますので覚えておきましょう。
「債権が譲渡できる」とはどういうことか
債権のような権利は、実は自由に譲渡ができます。ここでは債権譲渡について理解を深めましょう。
債権譲渡とは、「債権者が持っている特定の債権を他の人や企業に移転すること」を指します。このプロセスでは、複数の登場人物が関わるため、例としてAさん(元の債権者)、Bさん(新しい債権者)、Cさん(債務者)を使って説明します。
例えば、AさんがCさんに対して持っている100万円を請求できる債権をBさんに債権譲渡したケースを考えてみましょう。
AさんからBさんに債権譲渡が行われると、Cさんに対する債権はAさんではなくBさんが持つことになります。元々はAさんがCさんに対して100万円を請求できましたが、債権譲渡以降は、BさんがCさんに100万円を請求できるようになります。
債権譲渡はなぜ行われるのか?
このような債権譲渡は、主に企業が資金調達のために行われるケースが多いと言われています。債権譲渡と言っても無償で譲渡するケースは稀であり、債権という権利そのものが売買されています。具体的な債権譲渡の取引では、未回収の売掛金の回収を専門とする、サービサーと言われる債権回収会社や弁護士が債権を購入し、元の債権者の代わりに回収することが多いようです。
日本では、債権回収業務は「債権管理回収業に関する特別措置法」に基づいて厳しく規制されており、法務大臣の許可を得た会社(サービサー)や弁護士がこの業務を行うことができます。
また、債権譲渡には契約書などの文書が必要で、通常は債務者に対して元の債務者から「債権譲渡通知」が行われることで、新しい債権者に債権譲渡された効力が発生します。
債権譲渡はなぜ通知が必要なのか
二重譲渡をされると、債務者や新しい債権者に被害が及ぶことも
前項で解説したとおり、債権は原則として自由に譲渡できる性質があります。しかしその自由さが弊害として、元の債権者が、複数の人(企業)に対して債権譲渡をしてしまう、いわゆる「二重譲渡」という問題を引き起こすこともあります。
実際にそんなことをする人なんていないと思われるでしょうが、残念ながら実際に二重譲渡をしてしまう人が実在しているので、法的なルールが整備されているのです。実は今までご説明してきた債権譲渡は、民法に基づく法律行為であり、債権譲渡の効力の発生や、二重譲渡の問題への対処についても法令が根拠になっているのです。ただし、法律の専門家でない限りは、法律の条文を読み解く必要はないため、詳細までご理解いただくことは不要でしょう。
では、二重譲渡をされた場合に、実際にはどのようなリスクが生じるのか、次で解説します。
二重譲渡の被害者は誰か
二重譲渡をされて困ってしまうのは、二重譲渡をした本人ではなく、債務者と新しい債権者に被害が及ぶリスクがあるのです。
具体的には、債務者に及ぶリスクとしては、複数人いる新しい債権者それぞれに対して二重に支払いしてしまう可能性があります。債務者からしてみると、どちらが正しい債権者なのかを知る術がないままどちらにも支払わないままでいると、債務を履行しないことに対して債権者から訴えられてしまうという、重大なリスクにまで及んでしまいます。
また、新しい債権者にとっては、他にいる新しい債権者が債権を行使して支払いが完了した場合、自分は債務者に対して債権を行使することができないリスクがあります。つまり債権譲渡で購入した債権が無価値になってしまうということです。
これらのリスクを回避するために「債権譲渡通知」が重要となるのです。
確定日付のある証書での債権譲渡通知が重要
債権譲渡通知とは、元の債権者が新しい債権者に債権を譲渡した際に、債務者に対してその事実を知らせるための通知です。これは、債務者が正確な債権者に返済を行うために重要です。通知が行われることで、債務者は新しい債権者に対してのみ支払い義務を負うことになります。
二重譲渡の問題が一切ないのであれば、債権譲渡通知は口頭で行うことでも成立します。ただし、新しい債権者の立場からすると、万が一他の人にも債権譲渡されてはたまりません。なので慣例的に債権譲渡通知は確定日付のある証書をもって行われています。
確定日付があることによって、仮に二重譲渡をされた場合でも、どちらが先に通知または承諾を得たかを日付を元に優先順位が証明されるのです。また、確定日付のない証書や口頭で通知した場合は、確定日付のある証書が後から譲渡された場合でも、確定日付のある証書の方が優先されるのです。
このようなことから、債権譲渡通知は確定日付のある証書で行うことが一般的になっています。
確定日付のある証書にSNSソリューションが活用できる
確定日付のある証書の手段を2つご紹介
では、確定日付のある証書にはどのような手段があるのかを解説していきましょう。
債権譲渡通知を行う最もポピュラーな方法は、「内容証明郵便」を使って行う方法です。内容証明郵便とは、郵便局(日本郵便)が誰が誰に対し・いつ・どんな内容文書送ったかを証明してくれるサービスです。
もう一つの手段はNTTタウンページが提供する「SMSソリューション」です。SMSソリューションは経済産業省および法務省から産業競争力j強化法に基づく新事業活動計画の認定を受けた事業者によって提供される情報システムを利用したサービスであり、確定日付のある証明による通知等とみなされるため、債務者にSMSで通知することができます。SMSでの通知となるので到達が即時に行われることや、発信者側の管理画面で相手の開封確認が分かるという利点が大きな特徴です。
それぞれの手段について送付方法や特徴をご説明します。
内容証明郵便の送付手順
以下が内容証明郵便で通知を行う手順です。
通知書の作成
債権譲渡の事実を記載した通知書を作成します。内容には、債権者名、債務者名、新しい債権者名、譲渡される債権の内容などを記載します。
内容証明郵便の準備
通知書を3部作成します。1部は郵便局に保管、1部は債務者に送付、もう1部は手元に保管されます。
郵便局での手続き
郵便局で通知書を提出し、内容証明郵便として送るよう依頼します。相手側(債務者)から届いていないと言われないためにも、内容証明郵便に加えて、配達した事実を証明する「配達証明」もオプションで依頼するケースも多いようです。
送付と記録の保管
郵便局から債務者に通知書が送られ、郵便局が送付の記録を保管します。債権者はこの記録を手元に残すことで、債務者に対して正式に通知したことを証明できます。
SMSソリューションの場合
次にSMSソリューションを活用する場合の送付手順です。内容証明郵便と比較してご確認ください。
通知書の作成
債権譲渡の事実を記載した通知書を作成します。記載する内容は、内容証明郵便と同様です。紙の郵送ではありませんので、MicrosoftのWordファイル等で作成します。
※「MicrosoftWord」は米国Microsoft Corporation の米国およびその他の国における登録商標または商標です。
文書データのPDFアップロード
通知書をPDFファイルに変換し、SMSソリューションの管理画面にアップロードします。
SMS送信
管理画面で送信先(債務者)の携帯電話を入力し、SMS送信を行います。
送付と記録の保管
管理画面で送信先(債務者)への送信結果だけでなく債務者が開封したかどうかも確認でき、通知記録の証明書を発行することもできます。
まとめ
SMSソリューションの方が、郵便局に行く手間が省ける、債務者が開封したかの確認までできるなどのメリットがあることがお分かりいただけたでしょうか。SMSソリューションであれば、申請者の申し出に基づき、通知記録の証明証を発行することもできます。
経済産業省および法務省から産業競争力強化法に基づく新事業活動計画の認定を受けた事業者によって提供される情報システムを利用したSMSソリューションを活用して、債権譲渡通知のペーパーレス、DX化を実践してみてはいかがでしょうか。
2024年8月執筆